先日録画しておいた「五嶋みどりがバッハを弾いた夏・2012」を視聴しました.米国の音楽大学弦楽器部の学部長である五嶋みどりさんが全国の有名な寺社,教会にてバッハの無伴奏ヴァイオリン独奏曲を演奏してまわるツアーを収録したものでした.バッハ作品に対する真摯な姿勢は勿論のことですが,日常の生活においてもそのストイックなスタイルに感銘を受けました.
一般的には世界的に有名なヴァイオリニストであれば,ツアーにおける宿泊施設や衣裳,移動交通機関等,一流のものを使用するのが常であると思われます.ところが彼女の場合,宿泊はビジネスホテル,演奏用衣裳は毎回同じ,移動は公共交通機関といった具合でまったくスタイルを異にしています.その根底にあるものは,ひたすら自分の演奏をすることへのこだわりです.ぶれることのない不動の姿です.したがって,演奏場所がどのような所であろうと,天候が荒れ雨音が激しかろうとお構いなしです.彼女の使用楽器はグァルネリの銘器で数億円ともいわれますが,子供に持たせて弾かせてみたり屈託がありません.これも演奏に素直な反応を示す子供達への優しい思いがあるからです.
虚飾を一切断ち切る清々しさ,潔さがバッハの演奏を通じて感じられました.バッハを演奏することは大変難しく,深いものだという彼女のような演奏家こそがバッハと対峙できるのかもしれません.
番組のサブテーマ「不動」の意味が心奥深く伝わってまいりました.