初めて聴くコムラード演奏会が第40回記念演奏会でした.会場の紀尾井ホールも初めて訪れました.近くには上智大学が控え,ホール正面には桜並木があり中々いい雰囲気の場所です.
記念演奏会らしくプログラムには過去の演奏歴が載っており興味深く読みました.鈴木静一氏が名付けたコムラードは当時,東京の各大学マンドリンクラブのトップクラスを集めた合奏団だったようです.マンドリン界で有名な合奏曲とともにちりばめられた高難度の独奏曲が当時の演奏レベルを連想させます.その後,紆余曲折を経ながらも40年の歴史を積み重ねた由緒ある合奏団です.
今回の聴きものはなんといっても交響詩「失われた都」です.鈴木静一全作品に取り組むこの楽団にとってはひとつの集大成的プログラムといえるでしょう.
折しも昨年催された鈴木静一展でのラストが当曲であり,否が応でも比較対象となります.昨年の「都」は全国から鈴木静一ファンが東京オペラシティ・タケミツメモリアルホールに一堂に会した一大イベントでの演奏でした.小穴雄一氏指揮の下,100名余が奏する「都」はその演奏規模といい話題性といいまさに斯界の注目を集めました.客席で聴く私もその圧倒的な気迫に打ちのめされ,震えるほどの感動を味わったものです.
さて本日のコムラードです.13:00開場後しばらくして数名によるロビーコンサートが始まりました.こうした演奏は普段と勝手が違うものでかなり緊張気味のようでした.調弦もわずかに気になりました.
本番1部1曲目は日高氏指揮による自作品「フレア」.現代的作品で作者の題名通りのイメージがなんとなく伝わります.2曲目「絃楽の為の3楽章 トリプティーク」(芥川也寸志)は一度も弾いたことがなく,いつかやってみたい曲の一つです.比較的遅めのテンポでしたがワクワク感はありました.3曲目「アリババと40人の盗賊」(鈴木静一)はプロによるナレーション付の音楽物語ですが私にはいまひとつでした.自分としては「朱雀門」を聴いてみたいなと思いつつ「アリババ」を聴いていました.
2部は飯塚氏指揮による演奏です.1曲目「マンドリニストの群れ」(ブラッコ)はマンドリンオリジナルのスタンダードで聴きなれた曲です.こじんまりまとまっている印象でした.ラスト曲を考慮したエネルギー調整といったら失礼になってしまうかもしれません.2曲目「アダージェット 交響曲第5番第4楽章」(マーラー)は期待以上の出来でした.こうした曲こそ指揮者の思いがにじみ出るもので,ましてや編曲者自身であればなおのことです.飯塚氏の指揮は初めて見たのですが,そこかしこにロマンティシズムを感じさせる印象です.そしていよいよラスト曲,コムラードの「失われた都」(鈴木静一)です.序盤で感じるのは中低音部の厚みがもう少し欲しいということです.ドリンと比べドラ,チェロの本数がもっとあればバランスがとれる気がします.ギターはよく鳴っていました.中盤以降で管楽器は弦楽器とのからみにおいてほんのわずかに浮いたような気がします.ホールのせいもあるかもしれません.パーカッションは全休止での残響が気になりました.
これらほんのわずかに気になることはごく些細なことで,全体として感じるのは「都」に対するコムラード奏者の熱い思い,40年の歴史の重みです.昨年の「都」と比較しても勝るとも劣らぬ気迫を存分に感じることができました.飯塚氏の体全体から発する「都」への思いが指先から奏者に向けてほとばしり,奏者も全身で受け止める.ステージがまさにひとつに昇華したかのような合奏の姿がありました.私もこんな仲間と演奏してみたかったなとの思いが昨年同様に甦りました.
「都」は多種の管楽器や打楽器を駆使した大曲だけにかなりの奏者数とそれなりの会場が求められ,頻繁に演奏機会のある曲ではありません.今後弾く機会があるのかわかりませんが,チャンスがあればやってみたい曲ではあります.